最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)462号 判決 1958年6月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人海野普吉同大野正男の上告趣意について。
所論第一点は、原審は訴因変更が必要であるのにかかわらずその変更をしないで、被告人に対し強盗殺人の共同正犯の訴因で殺人の幇助を認定したのは、論旨引用の高等裁判所の判例と相反する判断をしたものであるというに帰する。しかし、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)二九八七号同二九年一月二一日第一小法廷判決、刑集八巻一号七一頁)によれば、訴因は審判の対象を明確にして被告人の防御に不利益を与えないためであるから、被告人が幇助の主張をしているようなときに共同正犯の訴因で幇助を認定するのは妨げない旨判示しており、また共同正犯の訴因で幇助を認めても妨げない旨の判示(昭和二六年(あ)一七六七号同二八年三月五日第一小法廷決定、刑集七巻三号四五七頁)もあるのであるから、所論高等裁判所の判例は、このような当裁判所の判例によって変更されたものである。されば原判決には判例違反はない。しかも、本件犯罪の外形的事実は全く同一であって、これについてどの程度の犯意があったと認定するかによって、強盗殺人の共同正犯ともなり、殺人の幇助ともなる事案である。そして原審の認定は訴因よりも遥かに被告人に有利でありその防御を害したものとは認められないのであるから所論は採るをえない。
所論第二点は、精神状態についての事実誤認であり、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)